熱処理用の雰囲気ガスとは?種類や用途、発生装置を詳しく解説

熱処理用の雰囲気ガスとは?種類や用途、発生装置を詳しく解説

自動車部品の製造などでよく用いられる熱処理装置では、近年安全性や低コスト、環境への負荷などでレベルアップが求められています。
そうした中で熱処理炉は密閉型構造が一般化してきており、炉内で使用される雰囲気ガスが着目されています。
雰囲気ガスの種類はさまざまで用途や目的に合わせたガスを選定することで製品の品質やコストなどに大きな影響を与えます。
この記事では雰囲気ガスが使われる背景から用途、種類について解説をする他、雰囲気ガスの発生装置についても詳しく解説していきます。

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雰囲気ガスとは

雰囲気ガスとは熱処理炉内に充填させて使うガスのことです。
まずは雰囲気ガスについて基本的な情報を解説していきます。

熱処理における雰囲気ガスの用途

空気中で熱処理を行った場合、材料が酸化、あるいは脱炭し表層部には厚い酸化スケールが形成されるので後工程にピーリング処理が必要になってきます。
しかし、雰囲気ガスを使用することにより処理材の酸化反応をなくす、もしくは抑制する事によりピーリング処理の手間を省き材料の無駄をなくすことにもなります。
雰囲気ガスは酸化防止といった目的だけではなく、その他にもいくつかの目的で利用されています。

  • 酸化防止:酸素と反応してできる酸化被膜の形成を防ぎます
  • 脱炭防止:鋼から炭素が抜け出てしまうと起こる強度低下を防ぎます
  • 浸炭処理:鋼の表面から炭素を浸透させて強度を改善します
  • 窒化処理:金属の表面から窒素を浸透させて金属表面の特性を改善します

雰囲気ガスに用いられる気体

熱処理で利用される雰囲気ガスにはさまざまな性質をもつ気体が使用されています。
おもなガスの種類と分類は以下の通りです。

種類 分類
不活性ガス 窒素、アルゴン、ヘリウム など
酸化性ガス 酸素、水蒸気 など
還元性ガス 水素、アンモニア、分解ガス など
浸炭性ガス 一酸化炭素、炭化水素ガス、都市ガス、プロパンガス、メタノール など

熱処理で使われる雰囲気ガスは、コストメリットを考慮して純粋なガスを利用するよりも、
これらの気体と空気を混ぜて化学反応させたり、電気分解させたりして生成して使用することがあります。

変成雰囲気ガスの分類と種類

続いて先ほど紹介したさまざまなガスを原料として生成する変成雰囲気ガスの種類を紹介します。
発生方法の違いなどで分類されている代表的な4つの変成雰囲気ガスについて解説していきます。

発熱型変成ガス(DXガス、NXガス)

DXガスやNXガスと呼ばれるもので、プロパンガスやブタンガスなどのガスをもとに作られます。
それらのガスを燃焼させ水分を除去して成分調整をしたものが発熱型変成ガス(DXガス)です。
混合する空気の量によって、発熱型変成ガスはリーン型とリッチ型の2種類に分類されています。
さらに燃焼ガスから二酸化炭素と水分を除去したものを窒素型変成ガス(NXガス)と呼びます。

吸熱型変成ガス(RXガス)

吸熱型変成ガスは発熱型変成ガスと異なり、自己発熱しないため外部から熱を供給して反応させる必要があります。
そのため吸熱型変成ガスと呼ばれます。
プロパンなどの炭化水素ガスを原料として1000℃以上で加熱、保持したニッケルを触媒として反応させると吸熱型変成ガス(RXガス)が発生します。

アンモニア分解ガス(AXガス)

アンモニア分解ガス(AXガス)は気化されたアンモニアガスを約1000℃のニッケル触媒を通して水素と窒素に分解して生成します。
アンモニア分解ガスは水素が発生するため、熱処理用途以外の目的でも利用が注目されています。

滴注式分解ガス

メチルアルコールなどの有機溶剤を高温の炉内に直接滴下することで熱分解して発生するガスです。
変成式のガスに比べてCOガス濃度が高く、従来の変成ガスに比べて早く浸炭処理が可能です。

種類 通称 組成(%) 露点 用途
CO CO2 H2 CH4 N2
発熱型変成ガス DXガス
(リーン)
1.5 12.5 0.8 +5 無酸化焼鈍
DXガス
(リッチ)
12.0 6.5 10.0 0.5 +5 光輝焼鈍
ろう付け
窒素型変成ガス NXガス 1.8 0.05 1.0 -40 光輝焼鈍
無酸化焼入
焼結
吸熱型変成ガス RXガス 24.0 0.3 33.4 0.4 0 浸炭
浸炭窒化
光輝焼鈍
光輝焼入
焼結
ろう付け
アンモニア分解ガス AXガス 75.0 -40 還元
光輝焼鈍
光輝焼入
焼結
ろう付け
滴注式分解ガス 20.0 80.0 浸炭

変成雰囲気ガス発生装置について

雰囲気ガスの種類や用途などを解説しましたが、ここからは雰囲気ガスの発生装置について解説をしていきます。

変成雰囲気ガス発生装置のメリット

雰囲気ガスの発生装置のメリットについて解説します。

コスト削減

雰囲気ガス発生装置を導入すると、高価な水素ガスや窒素ガスを内製できるため製造コストを抑えることが可能です。

排ガスの再利用

さらに発生装置で発生する熱を用途に応じて再利用することで工場の電力や都市ガスの使用量を削減することができます。逆に熱エネルギーをガス燃焼で発生させた場合の排ガスを利用して雰囲気ガスを生成することも可能です。

ガス濃度の調整

内製で雰囲気ガスを生成するとガス濃度の調整が可能なため自社製品に適したガス濃度に設定することが容易にできます。

変成雰囲気ガス発生装置の構造

雰囲気ガス発生装置の構造について吸熱型変成ガス(RXガス)の発生装置を例に解説します。
吸熱型変成ガス発生装置はおもに以下の要素から構成されています。

  • 変成炉
  • 反応塔(触媒)
  • バーナー
  • 冷却器
  • 配管

まず原料ガスと空気をミキサーで混合して反応塔に送り込みます。
反応塔内の触媒はバーナーで900℃前後に加熱され、混合ガスの反応が進みます。
触媒はおもにニッケルが用いられます。
生成された吸熱ガスは冷却器を通り、冷却されて送気されていきます。
以下に概略図を示します。

変成雰囲気ガス発生装置の種類

ここからはサンファーネスで過去に導入実績のある雰囲気ガス発生装置をいくつか紹介します。

アンモニア分解ガス発生装置(AXガス)

アンモニアを通すと微量に出続ける脱水処理方法を工夫することにより、設備を止めることなく熱処理をすることが可能となりました。

【導入前の課題】
熱処理中に出る水分により工程が止まる

【導入後の効果】
水分吸着塔を2本組み込み、24時間体制で相互交換することで、設備を止めたり、スペア交換したりする必要もなく運転が可能となりました

アンモニア分解ガス発生装置(AXガス)

発熱型変成ガス発生装置(DXガス)

生成されたガスの冷却方法を変えることにより、サイクルを短縮することができ、効率良く熱処理をすることが可能になりました。

【導入前の課題】
生成されたガスを早く冷却して使用したい

【導入後の効果】
特殊な2段階の冷却方法を用いることにより通常の水冷を行うよりも早くガスを冷却することができ、タイムロスなく熱処理を行うことができた

発熱型変成ガス発生装置(DXガス)

吸熱型変成ガス発生装置(RXガス)

マッフルを改良することでメタルダスティング事象によるマッフルの脆化を防ぐことができました。

【導入前の課題】
マッフル内の雰囲気とRXガスの処理温度によりマッフルが割れる

【導入後の効果】
マッフルの材質変更と部分的な厚み調整、配管との接続方法を工夫したことによりマッフルの寿命が延びた

吸熱型変成ガス発生装置(RXガス)

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よくある質問

Q.不活性ガスのアルゴンと窒素の使い方の違いは何ですか?

窒素とアルゴンはどちらも不活性ガスとして利用されますが、窒素だと高温化である種の金属と反応する特徴があります。
アルゴンの方がより安定した物質ですが、コストが窒素ガスの約2倍かかることもあります。
そのため用途に応じて使い分けをするのがよいかもしれません。

Q.変成雰囲気ガスによる火災や爆発のリスクはありませんか?

雰囲気ガスの中には引火性の強いガスが含まれていて、誤って空気と混合して爆発限度内濃度に達すると、電気火花などで爆発を起こします。
熱処理装置で点火源の除去は不可能なため空気の混入を防ぐように安全設計に注意が必要となります。
またプロパンガスやメタンガスは爆発限界の範囲は比較的狭いですが、不用意に漏らすと火災の原因となります。
検知器の取り付けや換気に注意するなど火災防止にも十分に注意が必要になります。

Q.炉中ろう付けに雰囲気ガスを利用するメリットは何ですか?

炉中ろう付けでは還元性ガスの水素や不活性ガスの窒素などを利用するのが一般的です。
還元性ガスを使用すると酸化鉄を鉄に還元するため輝きのある外観を取り戻すことが可能です。
また窒素を使用して無酸化状態とし、酸化を防ぐことが可能です。

まとめ

ここまで雰囲気ガスの種類や特徴、製造装置について解説してきました。
熱処理炉の雰囲気ガスには水素や窒素が利用されていて、酸化防止や浸炭処理の促進などに活用されています。
正しい雰囲気ガスを選択して利用することで製品の性能向上や原価低減に繋げることが可能です。

工業炉メーカー「サンファーネス」では、1,500台以上の工業炉製作で培ったノウハウで、お客様の用途に合わせた雰囲気ガス発生装置をオーダーメイドでご提案いたします。
技術的な相談も無料でお受けしますので、お気軽にご相談ください。

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著者 / サンファーネス編集部

1500台以上の工業炉の設計・製作を手掛け、自動車・鉄鋼・化学各種業界向けに展開。特定の炉に限定せず多品種の経験と実績を持つ。また、工業炉だけでなく付帯設備や搬送装置も含めてトータルでサポートし、仕様やニーズの異なる課題解決にも多数対応。

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