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窒化処理とは?窒化の特性や窒化処理の種類、特徴を解説
窒化処理は、身の回りにある機械や家電製品、自動車などに使われている多くの機械部品で利用されています。
金属の表面硬度を向上させて耐摩耗性の改善や、耐食性を高めて経年劣化に強い性質を持たせることができるからです。
また窒化処理はその他の熱処理に比べて、処理温度が低いため金属の歪みが起きにくい特徴があります。
この記事では窒化処理の特徴や種類、用途などを中心に解説を行うとともに、特殊な窒化処理についても紹介していきます。
サンファーネスでは窒化炉、雰囲気炉の開発提供メンテナンスをしています。お気軽にご相談ください。
目次
窒化処理とは
窒化処理は鋼の熱処理方法のひとつで、焼入れや浸炭処理などと並んで多くの工業製品などで用いられています。
どのような熱処理を用いるかは、処理する材料の特性や使用する目的、環境などを考慮して選択する必要があります。
窒化処理は窒素を含む雰囲気中で加熱処理をして、鋼表面に窒化物を形成させて硬化させる方法です。
ドイツ Krupp社のA.Fry博士によって1923年に開発された方法で、その後用途に合わせてさまざまな手法が研究開発されています。
処理温度が他の表面処理に比べて低温(400〜600℃)であり、処理物の変形が生じにくい特徴があります。
また、表面はピッカーズ硬さでHV1200を超える硬度を得られ、耐摩耗性の改善が可能です。
その他にも耐食性を向上させる性質があり、経年劣化が起きにくい特徴があるため耐久性が求められる部品で良く用いられています。
一方、窒化処理で得られる硬化層は表面から0.1〜0.5mmと浅く、大きな荷重を受ける用途には適さない特徴があるため、使用用途に注意する必要があります。
浸炭処理との違い
代表的な鋼の熱処理には、窒化処理のほかに浸炭処理があります。
どちらも鋼の表面を加熱して処理しますが、浸炭処理では炭素を鋼表面の組織に拡散浸透させるのに対して、窒化処理では窒素を表面組織に拡散浸透させます。
窒化処理は表面組織のみ硬化させて内部組織は硬化させないため、材料の靭性を保つことができる特徴があります。
いずれの方法も鋼表面の硬度を上げて、耐摩耗性が向上できるため、自動車のエンジン部品や機械の軸受けなど連続的な摩擦を受ける部品に使用されます。
ただし表面硬度や寸法精度などに違いがあるため、部品の用途によって処理方法を選択する必要があります。
窒化処理と浸炭処理の大きな違いは加熱温度にあります。
窒化処理は400〜600℃で加熱するのに対して、浸炭処理では850〜1050℃といった高温で加熱します。
窒化処理のほうが低温加熱するため寸法変化が少ない特徴がありますが、硬化層の深さは0.1mm程度までしか得られないため、大きな衝撃を受ける部品には不向きです。
そうした性質を利用して、エンジンのシリンダーやポンプ、コンプレッサー部品などの製造に活用されています。
浸炭処理は高温で処理するため、窒化処理に比べて有効硬化層が深く耐衝撃性が優れています。
その他にも靭性の向上により疲労特性が向上するため、繰り返し荷重がかかるエンジンやクラッチ部品、機械の軸受けなどに用いられます。
一方で高温加熱した際に、材料の変形が発生しやすく、寸法精度が厳しい部品には注意が必要です。
窒化と浸炭それぞれの特性
有効硬化層 [mm] |
硬度 [HV] |
歪み | |||
窒化 | 0.1~0.5 | 浅 | 1000 | 硬 | 小 |
浸炭 | 0.5~2.0 | 深 | 620~780 | 軟 | 大 |
浸炭窒化 | 0.5~2.0 | 深 | 1000 | 硬 | 小 |
浸窒焼入 | 0.1~0.5以上 | 窒化より深 | 700~800 | 浸炭より硬 | 小 |
窒化処理の種類とそれぞれの特徴
窒化処理には処理方法によりさまざまな種類があります。
- ガス窒化
- 塩浴窒化
- プラズマ窒化
- ガス軟窒化
- 酸窒化
- 浸硫窒化
- 浸窒焼入
各処理に適した材料や処理時間により基準は異なりますが、それぞれのおもな特徴と数値は以下のとおりです。
窒化方法 | 処理温度 [℃] |
硬さ [HV] |
有効硬化深さ [μm] |
適用鋼種 |
ガス窒化 | 510 (400) |
1000 | 100 | 高級鋼材 (ステンレス、ニッケル鋼) |
塩浴窒化 | 570 | 500 – 600 | 20 | 構造用鋼 ステンレス鋼 工具鋼 |
プラズマ窒化 | 400 – 570 | 1000 | 10 | ステンレス鋼 チタン材 |
ガス軟窒化 | 500 – 580 | 500 – 600 | 100 | 低級鋼材 |
酸窒化 | 500 – 570 | 600 – 650 | – | 炭素鋼 |
浸硫窒化 | 570 | 400 – 550 | 100 | 炭素鋼 合金鋼 |
浸窒焼入 | 750 | 700 | 200 | 低級鋼材 |
*低温(400℃)処理時
続いてそれぞれの窒化方法について、一つずつ特徴を解説していきます。
ガス窒化
ガス窒化は雰囲気ガスにアンモニアガスを用いた窒化法で、アンモニアガスを熱分解によって水素と窒素に分解して使用します。
この窒素が熱処理中に鋼表面に侵入して硬化層を形成します。
熱処理温度が500℃前後の条件でもっとも硬度が上がり、表面硬度は深さ0.1㎜ほどで約HV1000に到達します。
520℃を超えるともろい白層が厚くなり表面硬度が低下するため、ガス窒化では通常510℃で処理が行われます。
また通常のガス窒化よりも低温の約400℃で処理する方法があります。
低温窒化処理では、通常に比べて窒素が侵入拡散する速度が遅いため金属の変形が極めて少なくなります。
一方で処理時間が長くなる点は注意が必要です。
その他に、通常のガス窒化よりも鋼種の取り扱いが多い特徴があり、ステンレスやニッケル鋼にも対応できるため活用の幅が広がります。
低温窒化のメリット
- 適応鋼種が多い
温度 | 鋼種 | |
低温ガス窒化 | 約400℃ | 炭素鋼、合金鋼、ステンレス、ニッケル |
ガス窒化 | 約510℃ | 炭素鋼、合金鋼 |
- 硬化の深さが表面形状に影響されず安定している
- 窒化層である表面化合物層(白層)を調整することができる
- 冷却を炉内で行うため、熱歪みが極めて少ない
- 耐食性の劣化が少なく、耐摩耗性が向上する
塩浴窒化
塩浴窒化は温度約570℃で、30〜180分間かけて塩浴により浸漬処理する方法です。
塩浴にはシアン酸塩(KCNO、NaCNO)を主成分として処理されるため、窒化と同時に浸炭が起こります。
そのためガス窒化では得られないオーステナイト系ステンレス鋼の窒化ができるという特徴があります。
硬化層の表面には20μmほどの鉄と窒素の白色の化合物層が形成されて、耐摩耗性・耐食性が向上します。
例えばSKD61材であれば、HV1000を超える硬度に到達します。
その下にはHV500ほどの硬度を持った窒素の拡散層が約0.5㎜形成されます。
このように窒素の拡散層ではなく、化合物層として形成されることが他の窒化処理と異なるところです。
プラズマ窒化
プラズマ窒化は炉体と処理品をそれぞれ陽極、陰極として、数百ボルトの直流電圧を印加してグロー放電中にイオン化した窒素を処理品に衝突させ、窒素を侵入拡散させて処理します。
グロー放電で生成された窒素イオンと水素イオンが処理品の表面で衝突を繰り返して窒化処理が施されます。
プラズマ窒化は表面から20μmで硬度がHV1000を超えます。
プラズマ窒化は処理時間が短く、低温で処理ができて変形が少ない特徴があります。また、ガス窒化や塩浴窒化に比べて環境負荷が少ないメリットがあります。
ガス軟窒化
ガス軟窒化は吸熱型変成ガス(RXガス)とアンモニアガスの混合ガスや、窒素と二酸化炭素、アンモニアガスの混合ガス中で処理する方法です。
通常の焼入処理が約900℃に対して、ガス軟窒化の処理温度は低温(500〜580℃程度)のため歪みが起きにくいメリットがあります。
表面硬さは0.1㎜の深さでHV500〜600に達するため、耐摩耗性と耐疲れ性の向上も可能です。
他の熱処理に比べて低い温度で処理しているので寸法変化が小さく、酸化膜が形成されにくく外観が美しいことが特徴です。
また通常のガス窒化に比べて適用できる鋼種が広く、低炭素鋼から高合金鋼まで対応できます。
ガス窒化とガス軟窒化の特徴
ガス窒化 | ガス軟窒化 | |
雰囲気ガス | アンモニアガス | 混合ガス (アンモニアガス、浸炭ガス) |
適用鋼種 | 高級鋼 | 低級鋼 |
表面硬度 | 高 | 低 |
硬化層 | 深 | 浅 |
処理時間 | 長 | 短 |
処理温度 | 低 | 高 |
ガス窒化は、処理温度が低く窒化層を生成するのに時間がかかってしまいますが、硬度は高くなります。
ガス軟窒化は、時間は短縮できますが、最表層に窒素を含んだ化合物層、内部の拡散層は炭素が入っているため、内部に入るにつれて硬度が低くなってしまいます。
処理後の使用目的にあったほうでどちらか最適なほうを選択します。
酸窒化
酸窒化はガス窒化の一種で、空気や二酸化炭素や水分を含む酸化性ガスをアンモニアガス中に数%混ぜた雰囲気ガスで処理します。
500〜570℃で数時間かけて処理を行い、窒素と酸素を同時に鋼材表面に拡散侵入させます。
鋼材表面の層を酸窒化層と呼び、その下側は窒素が分散した窒化層が形成されていて、これらの層を合わせて化合物層と呼びます。表面の酸窒化層が耐摩耗性、耐食性のほか、耐焼付性、耐疲れ性などにも優れています。
浸硫窒化
浸硫窒化は鋼表面に窒素と硫黄を侵入拡散させた「浸硫窒化層」を形成して、耐摩耗性や耐焼付性を向上させる処理方法です。
処理時間が短いことから迅速窒化処理として活用され、S45Cであれば表面から30~50㎛でHV400の硬度となります。
浸硫窒化には、塩浴浸硫窒化とガス浸硫窒化の二種類の方法があります。
塩浴浸硫窒化は、硫黄塩を含んだ570℃の窒化性塩浴中に処理品を数時間浸漬します。
鋼の表面に硫黄と窒素が共存する多孔質な浸硫窒化層が形成される特徴があります。
ガス浸硫窒化は塩浴中ではなく、雰囲気ガス中で浸硫窒化処理を行います。
アンモニアガスに少量の硫化水素を添加して、鋼表面に浸硫窒化層を形成させます。
硫化水素を含む雰囲気ガスは有害なので、排ガス処理装置を設置する必要があります。
浸窒焼入
浸窒焼入れとは、鋼の表面に窒素を浸透拡散させ、窒化処理では珍しい焼入れ(急冷)を行うことで硬質な焼入層を形成する金属表面技術のひとつです。
その焼入層は窒素マルテンサイトと呼ばれ、耐摩耗性や耐疲労性の向上に有効的です。
鋼の反応する変態温度が炭素よりも窒素のほうが低いため、浸炭焼入れよりも処理温度が低く、熱処理による変形が少ないうえに、浸炭焼入れと同等の硬度が得られるのも特徴のひとつです。
特殊な窒化処理技術
続いてこれまで紹介した窒化処理を応用した、特殊な窒化処理技術を2つ紹介します。
NV窒化
NV窒化処理は、ガス窒化処理とガス活性化処理(フッ化処理)を組み合わせたエア・ウォーターNV独自の窒化処理方法です。
ガス活性化処理(フッ化処理)とは、金属表面に形成された酸化膜を除去してフッ化膜に置き換える処理です。
ガス活性化処理を行った後にガス窒化処理を行うと、金属表面に窒素が容易に浸透することができます。
そのため、ガス活性化処理という前処理を施すことにより、NV窒化処理は通常のガス窒化処理と比べて以下のメリットがあります。
- 幅広い鋼種に窒化処理が適応可能になる
炭素鋼、ステンレス鋼、焼結材、ニッケル基合金まで対応 - 300℃後半から600℃までの幅広い温度帯で処理ができる
金属の歪み抑制や、表面硬度の増加など要求に沿う条件に対応 - 低Nポテンシャル処理など雰囲気制御が可能
化合物硬化層レス処理や深さのコントロール、硬度の調整が可能 - 用途別に窒化層のカスタマイズが可能
「鍛造金型向け」など特定用途に必要な硬度を設計できる
また、NV窒化は幅広い産業・業種の部品で利用されています。
- 二輪・四輪・建設機械(ターボ部品・エンジンバルブ・スチールベルトなど)
- 産業機械(軸受け部品、繊維機械)
- 家電製品(エアコン・食品機械部品)
- 金型(ダイカスト、鍛造)
- 食品(調理器具、食器、キッチン用品)
- 医療、介護機器など
詳しくはこちらのホームページで解説しています。
CR-NITE処理
CR-NITE処理は、NV窒化処理で表面に窒化層を形成した金属に、クロマイズ処理で均一なクロム窒化物を形成する処理方法です。
NV窒化後の金属にガス状のクロム成分を供給して、窒化層中の窒素と反応させ、表面に窒化クロム層を形成するエア・ウォーターNV独自の新しい表面処理技術です(特許第6637231号)。
CR-NITE処理には以下の特徴があります。
- 窒化処理に比べて大幅に耐摩耗性を向上
NV窒化層で形成された均一な窒化層とクロムが反応して、最大MHV1800の高硬度のクロム窒化物層が形成される - 耐熱合金を超える耐高温酸化性を発揮
汎用ステンレス鋼で1000℃を超える温度において、酸化雰囲気での使用が可能 - 高い耐食性を発揮
塩水噴霧試験や酸性溶液での腐食試験でステンレス鋼同等の耐食性が確認
そのため、耐食性、耐摩耗性のどちらにも適応可能
CR-NITE処理を行った金属表面は、約20μmの非常に高い表面硬度を持つクロム窒化層と、その下に約20μmのクロム拡散層が形成されます。
CR-NITE処理をした金属は、過酷な使用環境で長期間安定した性能を維持しています。
例えば発電所の過酷な環境下で長期間使われたバルブ部品の断面を確認しても目立った変化が確認されませんでした。高い信頼性が求められる環境で、長期間にわたって安定した働きが可能であることを示しています。
詳しくはこちらのホームページで解説しています。
よくある質問
Q:窒化処理と軟窒化処理の違いは?
軟窒化は窒化処理を短時間で可能な技術として開発がされました。
処理温度を上げて処理時間を短くしていますが、その代わりに硬化層深さが浅くなります。
OA製品や一部の自動車部品など、使用用途が比較的硬度を要求しない部品で利用されています。
Q:浸炭処理と窒化処理を同時に行えますか?
浸炭処理と窒化処理を同時に行う処理に「浸炭窒化焼入処理」があります。
窒化の表面硬度と浸炭の硬化層深さを必要とする場合に同時に行われることがあります。
浸炭処理で硬化した表面が歪んでしまうことがありますが硬度と深さは両立します。
自動車用ドアのヒンジなどに使用されています。
Q:焼入工程を窒化処理に変える注意点は?
窒化処理は焼入れに比べて、寸法変化が少ないメリットがありますが同等の有効硬化層が浅い可能性があります。
また耐摩耗性や耐衝撃性なども変化する可能性があるので、製品を使用する環境や目的などを考慮して慎重に判断する必要があります。
事前に熱処理テストを行い、品質評価をすることをお勧めします。
まとめ
ここまで窒化処理の特徴や浸炭処理との違い、窒化処理の種類とそれぞれの特徴について解説してきました。
窒化処理は浸炭処理や焼入れに比べて、低温で処理するため金属の変形が少ないメリットがあります。
表面硬度が向上して耐摩耗性が向上するほか、耐食性の持続が期待できるため経年劣化を抑えることが期待できます。
窒化処理の種類は処理方法によってさまざまで、製品の使用環境や利用目的で選択する必要があります。
また通常の窒化処理では製品の要求仕様を満たせない場合は、NV窒化処理やCR-NITE処理のような特殊な窒化処理方法を選択することが可能です。
金属製品の表面処理について課題をお持ちの際は、是非、熱処理の専門メーカーにご相談ください。
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