1500台以上の工業炉の設計・製作を手掛け、自動車・鉄鋼・化学各種業界向けに展開。特定の炉に限定せず多品種の経験と実績を持つ。また、工業炉だけでなく付帯設備や搬送装置も含めてトータルでサポートし、仕様やニーズの異なる課題解決にも多数対応。
乾燥炉とは?仕組みやユースケースをわかりやすく解説
乾燥炉はワークなどに付着した水分や塗料を乾燥させる目的で使われていて、工業分野や食品、化学など多くの業種で用いられています。乾燥炉には多くの種類があり、利用するワークや用途によって最適な方式を選択する必要があります。今回の記事では乾燥炉について、概要や構成、注意点などを紹介します。
サンファーネスでは熱処理炉の開発提供メンテナンスをしています。お気軽にご相談ください。
目次
乾燥炉とは
乾燥炉は炉内を加熱した空気を循環させて、ワークに付着した水分を蒸発・乾燥させるための炉です。ワークそのものに付着した水分以外にも、製作工程内でワークに塗布された塗料や溶剤を乾燥させる目的で使用する場合があります。用途は工業用以外にも食品や薬品、木材など多岐にわたります。炉内の温度管理が必要な点で熱処理炉に近い構造・制御をしていますが、目的が乾燥なので熱処理炉ほど炉内を高温にする必要がありません。乾燥炉は一般的に200℃以下で設定されることが多く、用途に応じて温度設定を行い、ファンで炉内の空気を循環してワークを乾燥させます。
乾燥炉の種類
乾燥炉には構造や生産方式、使用する熱源で分類されます。それぞれの特徴や仕組みを解説します。
構造による分類
乾燥炉には直接式と間接式の乾燥方法があります。
直接乾燥炉
炉内に加熱装置を設置して、ワークに直接加熱した炉内雰囲気を当てて乾燥させます。ワークを直接加熱するためエネルギー効率が高いことや、加熱装置を別置きしないため設置スペースを削減することができます。一方、炉内温度にムラができやすく、複数のワークを同時に乾燥させる場合に温度が均一にならないといった問題が起きる可能性があります。
間接乾燥炉
乾燥室と燃焼室が分かれて設置されていて、燃焼室内で加熱装置が炉内雰囲気を温めてから乾燥炉に送気します。炉内全体に加熱された空気が広がるので、温度分布が均一になりやすくワークの出来にムラが起こりにくいメリットがあります。また塗料など引火性がある物質に火花などが飛び散る可能性が無いので、火災のリスクを抑えられる特徴があります。一方で燃焼室を別置きすることで設置スペースが大きくなることや、炉内の温度が上昇するまでに時間がかかり熱効率が低下することなどがあげられます。
生産方式による分類
乾燥炉は生産方式によりバッチ型と連続式に分けられます。
バッチ型
バッチ型の乾燥炉はトレーに入れたワークを一度にまとめて乾燥させ、処理が完了したら新たなトレーと入れ替える方式です。一度の処理ごとに加熱条件が変えられるため、少量多品種の生産に適した方法です。マッフル炉と呼ばれる箱型形状をした構造が一般的で、トレーを入れ替えるための扉と搬送装置を備えています。処理ごとに扉を開けてトレーを入れ替えるため熱が逃げてしまい、つど加熱時にエネルギーが必要となり熱効率が低下してしまいます。
連続式
連続式の乾燥炉はコンベアで連続的にワークを流して、一定温度に保持された炉内を一定時間で通過して処理が完了する構造です。常に同じ温度条件で処理されるため大量生産に適しています。バッチ炉のように処理ごとに炉内の熱を失わないため熱効率が高いメリットがあります。
エネルギーによる分類
乾燥炉が使用するエネルギーはおもに電気とガスに分かれます。
電気式
電気式の乾燥炉は加熱装置にヒーターを用い、抵抗加熱によって炉内雰囲気を加熱してワークを乾燥させます。電流をコントロールすることで温度を管理するため、細かい温度制御ができるメリットがあります。また排気ガスが出ないため排気装置が不要であり、環境に優しい方式といえます。一方で熱量当たりの単価がガスに比べて高く、エネルギーコストが高くなる傾向にあります。
燃焼式
燃焼式の乾燥炉は、バーナーを使用して都市ガスなどを燃焼させたエネルギーで炉内雰囲気を加熱してワークを乾燥させます。燃料はおもに都市ガスが使用されますが、液体燃料、気体燃料、赤外線、蒸気などもあります。燃焼により高温の熱風を供給できるため迅速な乾燥が実現します。
ガスの流量調整や空気量の制御が難しい場合もありますが、ガスを使用することでエネルギーコストの効率的な管理が可能となります。
乾燥炉の用途
乾燥炉はさまざまなワーク、材質に用いられています。化学関連ではプラスチック原料や樹脂レンズ、機能性フィルムなどの乾燥に使われています。自動車関連では車体の塗装工程後に乾燥炉が使われて、外観を決める重要な役割を果たしています。その他にはセラミックスや電池材料、半導体装置部品、食器、タイルなど幅広いワークで用いられています。また工業用以外にも、食品向けで野菜や果物を乾燥させる用途や、薬品関係では医薬品を乾燥させて薬剤の結晶化・凝固のために使用されます。
用途 | 材料 |
---|---|
乾燥 | セラミックス 金属 ガラス 電子部品 試料 |
塗装・コーティング | 金属 プラスチック ガラス |
硬化 | 樹脂 シリコン |
滅菌 | 医療機器 薬品 |
保存 | 食品 スパイス |
乾燥炉の仕組み
乾燥炉は以下の構成要素で成り立っています。
加熱装置
乾燥炉の加熱装置は、ワークを乾燥させるための雰囲気を加熱するために用いられています。熱源はおもに電気式乾燥炉ではヒーター、燃焼式乾燥炉ではバーナーが用いられています。電気ヒーターは抵抗加熱式で電流を流した時に発生する輻射熱で周囲の空気を温めます。電流値の制御で温度をコントロールできるためガス式に比べて容易です。一方ガスバーナーは都市ガスなどの燃料と空気を混合させて、燃焼させた熱で空気を加熱します。温度制御は燃料と空気の流量調整で行いますが、温度コントロールには技術が必要です。
循環ファン
循環ファンは炉内の温度を均一に保つために用いられます。炉内で加熱雰囲気の対流を起こして均一な熱を供給することで乾燥ムラを防ぎばらつきを抑制します。上方、下方からの取り付けが一般的ですが、横からの取り付けも可能な場合があります。炉内雰囲気の流れを妨げない位置に設置することが重要で、設置スペース、配線、配管に注意が必要となります。
排気装置
排気装置は、乾燥プロセス中に発生する有害物質や煙を吸い込み、ダクトをとおして外に排出させます。局所排気装置や排煙ファン、耐熱排気装置など用途に応じてさまざまな種類があります。ガス式乾燥炉に限らず、電気式でも乾燥プロセスで有害物質や煙が発生する場合には排気装置を設置することが推奨されています。作業環境の安全性、法規制などで義務付けられている場合もあります。
制御装置
制御装置はさまざまな機能を制御するための装置の総称となります。以下はおもな制御項目です。
温度制御装置
炉内温度を設定値にあわせて加熱装置の出力を調整します。
ファン制御装置
炉内雰囲気の循環を制御して均一な温度分布を保ちます。
排気制御装置
有害物質や煙を適切に排出し、作業環境を安全に保ちます。
自動化制御装置
工程の自動化、操作の簡便化を図り、作業効率の向上が見込めます。
制御装置には用途に応じて、過昇温防止機能や故障監視機能、インターロックなどの安全機能が搭載されています。
乾燥炉のメンテナンス
乾燥炉の定期メンテナンスには炉内の清掃作業や炉内温度を計測して効果的な運用と長寿命を保つために重要になります。
以下はおもなメンテナンス方法になります。
清掃
スケールや異物、飛散した塗料などの除去
点検・校正
センサーや計測機器の点検・校正
部品交換
消耗品、劣化や故障による定期交換
メーカー推奨の交換時期などを考慮して、乾燥炉の使用頻度や使用条件に応じて設備が稼働しなくなってしまう前に計画的にメンテナンスすることをお勧めします。
乾燥炉のCO2削減
近年、メーカー各社では自社工場で発生するCO2の削減や、使用電力を発電するときに発生するCO2を削減する取り組みが求められています。
代表的な対策として
排熱回収
乾燥炉から排出される熱を再利用することでCO2排出量を削減できます。
エネルギー効率の向上
熱の損失を軽減する断熱材や省エネ効果の装置を導入することでCO2排出量を削減できます。
遮熱シートや遮熱塗料
放熱を抑え、炉内の温度を安定させることができ、省エネ効果が期待できます。
乾燥炉は加熱時のエネルギーに電力やガスなどを使用しているため、CO2削減が注目されている分野となります。使用する電力を太陽光発電などの再生可能エネルギーに見直す方法や燃やしてもCO2が出ない燃料へ切り替える方法、排出されるガスからCO2を分離回収する方法などの技術開発が進められています。
よくある質問
Q: 乾燥炉に関する法律はありますか
乾燥炉は消防法で遵守項目が定められています。熱源とワークの間に仕切りを設けることや、炉内に塗料などが充満しないように換気装置が必要なことなどが記載されています。また乾燥炉を導入する間には管轄消防署に届出が必要で消防署の点検を受けなければならいないことがあります。
Q: 真空乾燥炉とは何ですか
真空乾燥炉は炉内を真空にして処理することで、液体の沸点を下げて効率を上げる目的があります。炉内は密閉空間となっていて、真空ポンプで炉内の空気を吸引します。真空ポンプは乾燥炉の2~5倍の吸引能力があるものを使用するのが一般的で、油回転タイプやダイヤフラムポンプなどが用いられます。
Q: 乾燥炉のスペックはどのように選べばよいですか
乾燥炉はワークの性質や処理数量などから必要な熱量を計算して、それに合った加熱能力がある炉を選定する必要があります。また必要な熱量は水分が蒸発するまでの予熱期間、水分が蒸発する乾燥期間によって違うため注意が必要です。自社の要求に沿った炉のスペックに設計することが重要です。
まとめ
乾燥炉は工業分野や食品、化学、医薬品など多くの業種で利用されておりワークの性能や特性を最適化するために必要な設備です。
工業炉メーカー「サンファーネス」では、1,500台以上の工業炉製作で培ったノウハウで、お客様のご要望に合った熱処理炉のご提案をいたします。 技術的な相談も無料でお受けしますので、お気軽にご相談ください。
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