熱処理炉とは?種類や構造、事例までわかりやすく解説

熱処理炉とは?種類や構造、事例までわかりやすく解説

熱処理炉は熱処理を行うため加熱や冷却機能を持った設備を指します。
熱処理によって金属材料の組織改善やさまざまな特性を与えることが可能で、熱処理炉による処理で焼入れや焼戻し、焼きなまし、焼きならしなどを行うことができます。
この記事では熱処理炉に関する詳しい説明や熱処理炉の種類や構造についても紹介します。

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熱処理炉とは

熱処理炉とは熱処理を専門に行うための設備であり、ワークの加熱から冷却までを管理できる機能を持っています。

熱処理とはワークを加熱、冷却することで品質改善を行う加工法の一種で、製品形状を変えることなく材料内部の特性を変化させることができます。
熱処理ではワークを加熱した後に適切に保持、冷却を行うプロセスが重要で、加熱時間、保持する時間、冷却時間などの管理も合わせて行う必要があります。
そこで熱処理炉では熱処理のプロセスに合わせた加熱、保持、冷却などの工程を複合的に行える構造を備えており、それぞれのプロセスで時間管理を行いながら自動的に熱処理が進むシステムもあります。

金属の熱処理は金属材料を扱う製造業には必要不可欠な技術であり、特に鉄鋼材料に対しての熱処理が最も盛んです。
鉄鋼材料は熱処理によって実にさまざまな特性を獲得できる材料で、強度を高めたり靭性を与えたり、バネ性を与えることもできます。
またアルミニウムやチタニウムなどの非鉄金属材料でも熱処理のプロセスがあり、それぞれの材料に合わせた熱処理炉が存在します。

加熱炉と工業炉との違い

熱処理炉は数ある[炉]の内の1種類ですが、その他の炉との違いを説明します。

[炉] とは一般的に材料の加熱を行う装置の総称で、調理用の炉や焼却炉なども炉の一種です。
その中で工業的な用途で使用する炉を [工業炉] と呼んでおり、金属材料をはじめ、セラミックス、ガラスなどさまざまな材質を加工するための炉となります。
工業炉の中にも次のように多くの種類があり、材質や処理方法の種類によって専用の工業炉があります。

工業炉の種類 主な機能 対応する加工法
熱処理炉 金属材料の特性変化、品質改善 熱処理
加熱炉 金属材料の加熱 鍛造、プレス加工
焼結炉、焼成炉 金属やセラミックスの焼結や焼成での成形 粉末冶金(焼結、焼成)
溶解炉 金属材料の溶解 鋳造
乾燥炉 材料表面の水分や溶媒の乾燥、除去 乾燥

上記の工業炉のうち、溶解炉、加熱炉、焼結炉、焼成炉などは、主に金属原料から特定の製品の形状に加工する際に使用する炉です。
特に鋳造や鍛造、プレス加工は多くの金属製品の原型を形作る加工法であり、工業炉で素材の金属材料を加工しやすい状態に変化させた上で特定の形状に成形します。

これに対して乾燥炉や熱処理炉は製品形状がある程度整形されたあとに使用される炉であり、熱処理炉は鋳造製品、鍛造製品、プレス製品などに対しての後処理を行います。
製品によっては切削加工や曲げ加工などの形状変更を行ったあとに熱処理を行う場合もあり、主要な加工工程が完了した製品を熱処理炉に投入して最終的な特性を与えます。
熱処理炉は直接的な加工を行うための炉ではなく、材料内部の変化を行うことを目的とした炉といえます。

熱処理炉の基本原理とおもな熱処理方法

熱処理にはさまざまな処理方法があり、熱処理炉もそれに対応した製品があります。

熱処理の基本的な働き

金属の熱処理は製鉄技術の進化とともに古くから行われてきた方法です。

熱処理の基本は金属材料を加熱、冷却しながら特定の特性を引き出すことにあり、多くの試行錯誤や経験によって培われた加工法です。
日本刀を鍛える際に刀身を赤くなるまで熱してから鍛え、水につけて冷やす工程がありますが、この工程がまさに熱処理の部分で日本刀に強靭さを与えます。
現代では熱処理プロセスを技術的な体系としてまとめており、必要とする金属組織を得るための加熱、冷却などのプロセスが確立しています。

熱処理が最も効果的な材料は鉄鋼材料ですが、鉄鋼材料は内部のミクロ組織の状態や含有される炭素をはじめとした元素の働きによってさまざまな特性を獲得します。
熱処理はこの組織変化や炭素などの含有をコントロールする技術であり、これによって金属組織はフェライト、パーライト、セメンタイト、オーステナイトといった微細組織が変化し、弾性や靭性、硬度などを得るようになります。

熱処理の種類

鉄鋼材料に対する熱処理のおもな処理方法です。必要とする特性に応じて複数の熱処理を組み合わせる場合もあります。

熱処理方法 熱処理プロセス 得られる特性
焼入れ 材料をオーステナイトに組織変態させるまで加熱、保持後、急冷してマルテンサイトに組織変態させる ・硬質化
・強度向上
・靭性低下
焼戻し 焼入温度より低温で再加熱、保持してマルテンサイトを形成させる ・靭性調整
・硬質調整
・組織安定化
・内部応力除去
焼きなまし 加熱、保持後、徐冷、炉冷、空冷などを行う ・延伸性増加
・組織軟化
・切削性改善
・組織安定化
・残留応力除去
焼きならし オーステナイト温度以上で加熱後、一定温度で保持し、空冷する ・内部応力除去
・微細組織形成
・強靭性向上

焼入れと焼戻しはセットで運用されることの多い熱処理で、主に鉄鋼材料の強度の向上や硬質化を目的としたものとなります。
焼入れは鉄鋼材料を硬質化させる熱処理で、材料が固くなる一方で靭性が減ることで脆くなります。
そこで焼戻しによって組織を変化させ、硬度を多少調整し、靭性を増加、安定させることで実用的な金属材料とします。

焼きなましは逆に鉄鋼材料を柔らかくさせる熱処理で、加熱後に徐冷や炉冷などを行うことで柔らかい組織に変化させます。
材料が柔らかくなることによって硬度は低下しますが、材料の加工性や延伸性は向上するので、切削加工や引き抜き加工を行いやすくなります。
焼きならしも材料を加熱後にゆっくり冷却する熱処理ですが、焼きなましほど柔らかくせずに材料の内部応力の除去や強靭性の向上によって耐衝撃性改善など、機械的性質の改善を主とする熱処理になります。

これらの熱処理は主に鉄鋼材料に対するプロセスですが、アルミニウムや銅合金、チタンなど他の非鉄金属材料でも熱処理は存在し、それぞれ加熱や冷却のタイミング、得られる特性には違いがあります。
非鉄金属用には専用の熱処理炉などもあり、材料に合わせた熱処理を行う必要があります。

熱処理炉の種類

熱処理炉には加熱方法や冷却方法、プロセスの違いなどで種類が分かれるため、大まかな分類について紹介します。

熱処理炉の熱源による分類

熱処理炉の分類は加熱方法によって大きく2種類に分けられ、熱源によって [燃焼炉] と [電気炉] の2種類があります。

・燃焼炉:

重油やガスの燃焼(バーナー式、燃焼ガス式)による直接加熱方式、間接加熱方式

・電気炉:

電気抵抗による抵抗加熱、高周波誘導加熱、アーク加熱、電子ビームやプラズマ加熱

燃焼炉では直接バーナーで加熱する方式のほかに、外部で高熱化した燃焼ガスを炉内に送り込む方式があります。
また熱処理時に炉内の雰囲気ガスによっても熱源の種類は変わります。

電気炉では電気抵抗への通電による発熱方式の他、高周波焼入れやレーザー焼入れなどに対応した熱源も使用されます。

熱処理炉の冷却方法による分類

熱処理には加熱後の適切な冷却が重要であり、冷却方法による分類もあります。

冷却方法には急冷を行う [水冷] [油冷] の他に、空気中で冷やす [空冷] 、徐々に冷却を行う[徐冷] があります。
徐冷は熱処理炉では[炉冷]と呼ばれることもあり、熱処理炉の内部で温度を保持した状態で冷却をコントロールする方式です。
熱処理によって必要な冷却方法が変わってくるため、複数種類の冷却方法を使用できる熱処理炉もあります。

熱処理炉のプロセスによる分類

熱処理炉のプロセスには1つずつ熱処理を行う [バッチ型] と、連続で複数の熱処理を行う[連続式] があります。

バッチ型は熱処理の加熱、保持、冷却をそれぞれ独立して行う熱処理炉で、1台の熱処理炉で単一プロセスが基本となります。
熱処理炉内部で加熱を行い、必要に応じて保持も行いますが、その後の冷却は熱処理炉の外にワークを搬出して行います。
多品種少量の生産方式に際に適した方法で、熱処理炉への搬入、冷却時の搬出は台車やローラー、コンベアなどを使用します。

連続式は1台の熱処理炉の内部で加熱、保持、冷却のプロセスを連続的に通過して行う方式で、多数のワークを熱処理する大量生産に適しています。
連続式ではそれぞれのプロセスごとに内部で分割された処理室があり、加熱が終了したワークを次工程で保持、そして冷却プロセスに移動させる機構も有しています。
また連続式は長尺物の熱処理にも適しており、線材やパイプ材などを効率的に処理することもできます。

熱処理の種類による分類

熱処理炉は対象とする熱処理に応じた構造を持っており、単一の熱処理炉から複数の熱処理が可能な熱処理炉もあります。

熱処理には [焼入れ] [焼戻し] [焼きなまし] [焼きならし] などがありますが、基本的に焼入れには [焼入炉]、焼きなましには [焼きなまし炉] といった形で専用の熱処理炉があります。
また焼入れと焼戻しを一連の動きとして途切れることなく処理できる連続式の熱処理炉も構成できます。

熱処理炉の構造

熱処理炉はバッチ型と連続式で設備の構造や全体のサイズが変わりますが、熱処理炉としての構成要素は基本的に変わりません。
ここでは熱処理炉を構成する構造について紹介します。

加熱室

加熱室はワークを加熱するためのスペースで、熱源で発生した熱を加熱室内に満たすことで必要な温度まで上昇させます。
連続式の熱処理炉では焼入れ、焼もどしなどのプロセスに合わせて複数の加熱室を持つ設備もあります。
また加熱室内に温度ムラが起こらないよう循環用ファンも設置されています。

保持室

保持室では加熱したワークの温度を管理し徐冷を行うスペースです。
バッチ型など小型の熱処理炉では加熱室が保持室の役割を兼ねている場合もあります。

冷却室

加熱後のワークを冷却するスペースで、冷却材は水、油、空気などの種類があります。
水、油などは加熱後のワークを一気に冷却させるため、液体を噴出させるシャワーやワークを漬ける槽などが設けられます。
また空気の場合は加熱室から搬出したあとの開放式のスペースが冷却室として使用することもあります。

熱源装置

加熱室内の温度を上昇させる装置でおもに燃焼式であればバーナー、電気式の場合はヒーターが用いられます。
熱源装置に必要な出力は、被加熱物の熱量、設備の表面部分からの放熱量や、扉の開閉時にロスする熱量、必要な加熱速度などをもとに算出します。

雰囲気ガス

加熱炉内の空気を、処理目的によって置換するガスのことを雰囲気ガスといいます。

雰囲気ガスには窒素やアルゴンなどの不活性ガス、酸素や水蒸気などの酸化性ガス、水素、アンモニアなどの還元ガス、鋼材の表面に浸炭処理が施される浸炭性ガスなどがあります。

雰囲気ガス発生装置にはあらかじめ製造されたガスを送り込む装置のほか、熱処理炉内部で混合ガスを製造しながら送り込む装置があります。

温度制御システム

熱処理には加熱、保持、冷却それぞれのプロセスで適切な温度管理が必要なため、精度の高い温度制御システムが必要です。
加熱室や保持室、冷却室それぞれの炉内温度の測定や、温度変化に対する熱源、雰囲気ガスのコントロールなどをコンピューター制御で行う設備となります。
温度制御には、基本的なオンオフ制御が最も安易でコストが安いメリットがありますが、最近ではより精密な温度設定が可能なPID制御が用いられたりします。

搬送装置

ワークを熱処理炉内で移動させるための装置で、バッチ型では手動で移動させる場合もあります。
連続式ではコンベア、ローラー、プッシャーなど連続的な移動や炉内への搬入や冷却槽への浸透などに上下移動するエレベーターなどが使用されます。

導入事例

ポット型アルミ溶体化時効炉(T5、T6)

バスケットにワークを入れて溶体化、時効を行います。溶体化炉と時効炉を分けることによりタイムロスがなくスムーズな熱処理が可能です。

温度 170~600℃
有効寸法 W1000×L1000×H1000
雰囲気 大気
用途 溶体化 / 時効
処理物 アルミ
処理量 600kg/ch
電気容量 120kW

連続式ストランド炉

非鉄金属(チタン合金)に対応した光輝焼鈍炉です。加熱パイプや水冷パイプ、冷却管の1本単位での交換が可能です。

連続式ストランド炉

温度 700~1000℃
有効寸法 10A×L2800×6本
雰囲気 アルゴン
用途 光輝焼鈍
処理物 チタン合金
処理量 150kg/ch
電気容量 46kW

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よくある質問

Q.機械部品の焼入処理をするときのポイントは何ですか?

熱処理をする部品の大きさ(径、厚)を考えます。大きさ、形状によって焼きの入り方が変わり、どのくらい内部まで焼きが入るかにも関係してきます。一般的に鋼はよく焼入れして焼戻しをしたときに強靭性を発揮すると言われています。焼入性、焼入硬さ、焼入深さなどを考慮して設備の設計をするとよいとされています。

Q.熱処理炉の操作に必要な安全対策はどのようなものがありますか?

熱処理炉は設備の内部に熱源装置を備えており、炉内温度、水分量の管理や火災に対する消火設備が必要です。
また雰囲気ガスの中には有毒性のあるものもあり、ガスの漏えい検知装置や作業員の安全対策も重要です。
圧力が一定以上になると自動的に圧力を逃がす安全弁の設置や、特定の条件が満たされないと機械が作動しないようにするインターロック、緊急時の非常停止ボタンがあります。
作業員の安全対策として、装置の危険部分を覆う固定式ガードや可動式ガード、危険区域に入ると機械を自動的に停止させる光電センサーなどがあります。
さらに地震発生時や停電時などの設備の自動停止機能も必要で、災害発生時に火災などの二次被害を起こさない対策も必要となります。

まとめ

熱処理炉は複雑なプロセスを伴う熱処理を各種機器によって適切に管理、制御することが可能です。
また熱処理には焼入れ、焼戻し、焼きなまし、焼きならしといった方式があり、熱処理炉はそれぞれの方式に対応した製品がありますので、必要な熱処理に合わせた選定を行いましょう。

工業炉メーカー「サンファーネス」では、1,500台以上の工業炉製作で培ったノウハウで、お客様のご要望に合った熱処理炉のご提案をいたします。 技術的な相談も無料でお受けしますので、お気軽にご相談ください。

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著者 / サンファーネス編集部

1500台以上の工業炉の設計・製作を手掛け、自動車・鉄鋼・化学各種業界向けに展開。特定の炉に限定せず多品種の経験と実績を持つ。また、工業炉だけでなく付帯設備や搬送装置も含めてトータルでサポートし、仕様やニーズの異なる課題解決にも多数対応。

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