1500台以上の工業炉の設計・製作を手掛け、自動車・鉄鋼・化学各種業界向けに展開。特定の炉に限定せず多品種の経験と実績を持つ。また、工業炉だけでなく付帯設備や搬送装置も含めてトータルでサポートし、仕様やニーズの異なる課題解決にも多数対応。
加熱炉の種類や構成、加熱方法を解説
加熱炉は様々な産業で用いられていて、鉄や鋼など金属の性能を引き出す「熱処理」を行うための装置です。
熱処理を施すことで、金属は硬さや靭性を変化させることができるため、使用する用途に適した性質をもたせることが可能になります。
代表的な熱処理には「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」があります。
例えば自動車部品であれば、エンジン部品・ステアリング・トランスミッション・ブレーキ・サスペンションなど多くの部品で、必要な耐摩耗性や耐疲労性などを持たせるために熱処理が利用されています。
自動車産業に限らず、機械産業など日本の基幹産業の発展に不可欠となっており、日本のものづくりの品質を支えてきました。
そんな熱処理技術を実現するための重要な生産設備である加熱炉の構造や特徴、種類について詳しく解説します。
サンファーネスでは加熱炉の開発提供メンテナンスをしています。お気軽にご相談ください。
目次
加熱炉とは
加熱炉とは鉄などの被加熱物を、加熱条件や保持温度、冷却条件などの熱処理条件に基づいて、温度調節が自在にできる工業炉のことです。
加熱炉によって必要な熱処理条件のもとで金属を加工すると、必要な硬度や靭性などを与えることができます。
加熱炉は大きく、加熱と冷却の2つの機能を備えており、加熱機能は「加熱方式」と「雰囲気ガス」、冷却機能は「冷却方式」と「冷却材」が構成要素です。
おもに日本の基幹産業である自動車産業や機械産業で多く用いられていて、熱処理が施された部品は約8割を占めています。
日本では熱処理は専門性の高い分野のため、鉄鋼業や非鉄金属業など素材メーカーを前工程、最終製品まで加工する輸送機械や産業機械メーカーを後工程とする、中間産業として受託加工をするメーカーが多く存在します。
加熱炉の構成
加熱炉は分類によって構造の違いがありますが、大きく共通する構成について解説します。
加熱炉のタイプ
被加熱物の大小や熱処理方法によって加熱炉のタイプを選定します。
大きく分けて2種類あります。
- バッチ炉
製品を出し入れする搬送装置を使った加熱炉です。かごやトレーに被加熱物を積載して、加熱炉内に滞在する時間を管理して、搬送装置で出し入れします。バッチ炉は多品種少量の生産方式に適しています。 - 連続炉
製品をメッシュベルトやトレイプッシャーで、加熱室の中を連続的に通過するように搬送します。連続炉は単一品種の大量生産に適しています。
熱源装置
おもに電気式の場合はヒーター、燃焼加熱式の場合はバーナーが用いられます。
電気やガス(都市ガス・プロパン・LNG)、重油、灯油などのエネルギー源を用いて、炉内の雰囲気温度を上昇させます。
熱源装置に必要な出力は、被加熱物の熱量、設備の表面部分からの放熱量や、扉の開閉時にロスする熱量、必要な加熱速度などをもとに算出します。
必要以上に能力を持たせるとコストが上がってしまいますが、余裕のない設計だとトラブルで出力が下がったときに生産が止まってしまいます。
加熱室
室内を加熱して、一定温度まで上昇させて被加熱物を熱処理します。
室内の温度にムラができないように、ファンで循環をします。
ファンが故障などで停止してしまうと、加熱中の製品すべてが品質不良となり大きなロスが発生してしまいます。
そのため回転検知を取り付けて、故障の場合はすぐに異常を検知できるようにする方法があります。
加熱室内部の熱が逃げると、電気代や燃料代が余計にかかるため、周囲は断熱材と呼ばれる特殊な材料で施工します。
以前は耐火煉瓦がよく利用されていましたが、より断熱性がよく軽量な断熱材が使われるようになっています。
断熱材の中でも性能が高いものはコストが高いので、費用対効果や設備の安全性を考慮して選定する必要があります。
雰囲気ガス
加熱炉内の空気を、処理目的によって置換するガスのことを雰囲気ガスといいます。
- 不活性ガス:窒素、アルゴンなど
被加熱物と反応を避けるために使用します。 - 酸化性ガス:酸素、水蒸気など
鋼材の表面で脱炭反応を起こして酸化物を形成させます。 - 還元ガス:水素、アンモニア、分解ガスなど
高温酸化を防いで鋼材の表面が輝く光輝処理を施します。 - 浸炭ガス:一酸化炭素、炭化水素ガス、都市ガス、プロパンガス、メタノールなど
鋼材の表面に浸炭処理が施されます。
窒化処理などは特殊なガスを使用する場合もあります。
冷却装置
加熱炉には冷却機能を合わせることが多く、冷却材には水・油・空気などの種類があります。
冷却装置の搬送方法は、処理能力が高い方式は連続式で、コンベアなどで自動的に加熱炉から運び出された製品が、冷却装置内に送られ冷却材によって冷やされます。
加熱炉の種類と特徴
それでは加熱炉の種類とその特徴について解説していきます。
電気炉
種類と特徴
電気炉は燃焼炉に比べて、高精度な温度制御が可能であり、温度管理が重要な熱処理で良く利用されます。伝導・対流・輻射による直接加熱方式と間接加熱方式があります。
加熱方法
加熱方法には以下の種類があります。
- 抵抗加熱
抵抗体(ヒーター)は金属ヒーターや炭素ケイ素(SiC)、モリブデン、タングステン、カーボンが良く用いられています。 内部に熱電対が挿入されていて、ヒーターの温度を管理することで、炉内の温度制御を行っています。 - 誘導加熱
電気加熱の中でもっとも幅広く使われる加熱方法です。 外部コイルから高周波磁界を作り、被加熱物本体に誘導電流を流して、表面を発熱させるため、効率が高い方法です。 - 電子ビーム加熱
被加熱物に電子ビームを照射して、部分的に高温を発生させる加熱方法です。 - レーザービーム加熱
電子ビームと同様に、被加熱物に直接レーザーを照射して、部分的に高温を発生させます。 - 通電加熱
被加熱物に直接電流を流し、自己発熱させる加熱方法で「ジュール加熱」とも言います。
それぞれの特徴に応じて焼入れ、焼き戻し、窒化処理、浸炭焼入れ、光輝熱処理などほとんどすべての熱処理に対応が可能です。
燃焼炉
種類と特徴
燃焼炉は液体やガスを燃料として利用して製品を加熱します。
液体の場合には灯油や重油が用いられ、ガスでは都市ガスやプロパンガス、液化天然ガスが用いられます。
燃焼バーナーの火炎を直接当てる直接加熱方式と、ラジアントチューブやマッフルを使用して加熱する間接加熱方式があります。
直接加熱方式は鋳鉄や鋳鋼などの焼きなましなどに良く使用されます。
バーナー装置
バーナーはガスや油などの燃料を燃焼させて、加熱室内の温度を上昇させる器械です。
有害なNOxなどのガスを低減したリジェネバーナーや、燃焼に必要な酸素だけを使用する高効率な酸素バーナーなども用いられています。
バーナーを使用する加熱炉では防爆対策として、バーナー失火時に検知する火炎検知器や、炉内にガスが充満していないか検知するガス検知器の取付けなど、安全面での基準が強化されてきています。
加熱炉の冷却方式による分類
加熱炉で加工した被加熱物は、次に冷却工程で熱処理条件に合った温度で管理されます。
冷却工程には冷却媒体の違いで、いくつかの種類があります。
空冷
一番簡単な方法が空冷で、もっとも冷却能力が小さい方法です。
冷却能力が不足する場合は、ファンを使った強制冷却を行うこともあります。
焼き入れ性が良い材料では、空冷でも焼入硬化が可能です。
水冷
水冷は最大の冷却能力を持つ方法で、直接冷却と間接冷却があります。直接冷却は液温の管理が難しく、攪拌が不十分だと、品質不良が起きやすくなります。
油冷
焼入油に使われる鉱油は「JIS K 2242」で3種類が規定されています。
- 1種:一般焼入れ用
- 2種:熱浴焼入れ用
- 3種:焼き戻し用
その他
高分子化合物の水溶性冷却材や、硝酸系塩浴による冷却方法があります。
これらは水と油の中間的な冷却能力を持っており、濃度管理や温度管理に注意が必要です。
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加熱炉でよくある疑問
最後に加熱炉に関して良くある疑問を紹介します。
熱処理品の検査の方法は
完成した被加熱物が目的通りの性能が出ているかは外観では分からないためいくつかの検査を行います。
破壊検査と硬さ試験などの材質検査、ミクロ調査などの組織検査、測定や目視検査、非破壊検査などです。
- 破壊検査
試験片を決められた条件で破壊して強度を測定する方法。 - 硬さ検査
試験片に圧子を押し付けて、へこみの形状から硬さを測定する方法。 - 組織検査
熱処理品から試験片を採取し、研磨・エッチングをして顕微鏡で組織を観察する方法。 - 測定・目視検査
熱処理品の寸法や歪みを計測して、表面欠陥を測定する方法。 - 非破壊検査
熱処理品をX線や超音波などで、内部の割れや介在物を検査する方法。
炉内温度の計測方法と制御方法は
炉内温度の測定には、大きく分けて接触式と非接触式があります。測定温度や測定物質の種類、測定する周辺環境などで選択をします。
実際に良く用いられるのは熱電対です。
2種類の金属線の先端同士を接合して、温度差で発生する熱起電力によって温度を計測します。
加熱炉ではK熱電対(常用温度1000℃)と、R熱電対(常用温度1400℃)がよく用いられます。
温度制御には、基本的なオンオフ制御が最も安易でコストが安いメリットがありますが、最近ではより精密な温度設定が可能なPID制御が用いられたりします。
専用の温度調節器を、加熱炉の制御盤に組み込んで、サイリスタと呼ぶ調節器を通してヒーターの出力をPID制御します。
近年の温度調節器はオートチューニング機能を備えており、自分で細かく設定する必要なくパラメーター設定まで対応が可能になっています。
加熱炉の寿命の見極め方は
加熱炉が経年劣化してくると、断熱材の劣化によって設備表面からの放熱量が増えたり、扉などの駆動部分が熱で変形して本体に隙間が生じるなどして、放熱が発生するようになります。
このような状態ではエネルギーロスが大きくなり、電気代や燃料代が増えて製品原価に影響が現れます。
それが一定以上になると、設備を入れ替えた方がコストメリットが生まれるようになります。
設備の入れ替え時期を判断するためには、消費電力を定期的に確認するなど経年劣化を確認できる仕組みが必要になります。
まとめ
加熱炉の構造や種類、加熱方法について解説してきました。
加熱炉は搬送装置、加熱装置、加熱室、冷却装置などから構成されていて、熱処理方法や処理能力などでどういった構成を選ぶかが変わってきます。
加熱炉を大きく分けると電気炉と燃焼炉に分かれ、電気炉は温度管理やメンテナンスも容易なメリットがあります。燃焼炉はより大きな炉で大量に処理を行う場合に使われますが、一方で有害な排気ガスや爆発など安全上の問題などがあります。
また加熱炉は冷却装置とセットで使用されることがあるので、熱処理条件に適した冷却方法を選ぶ必要があります。
工業炉メーカー「サンファーネス」では、1,500台以上の工業炉製作で培ったノウハウで、お客様の用途に合わせた加熱炉をオーダーメイドでご提案いたします。 技術的な相談もお受けしますので、お気軽にご相談ください。
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